“The Times Transplantation Building / 時代移植” の “内” と “外” の評価について
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■ ”内”
転換期をむかえている日本(“内”)では、昭和モダニズムを過去の一様式として認識している若者たち(=ニュータイプ)の出現により、次の時代へと歩みを進めている転換移行期の状態です。しかし、未だ”近代のゴールであるバブル”を基準にした考え方(=近代史観)である昭和モダニズムを引きずる支配者層が実権を握っているため、閉塞感が蔓延しているようにも見受けられます。メインストリート的(本流)文化=昼の文化の世界では・・・(ほんとうはどうなんでしょう?確信は持てていません)
一方、90年代中頃から急速に増殖してきた路地裏文化=夜の文化=インターネット文化は、失われた20年という言葉とは反対に爆発期発展を遂げ、次々と革新的な作品、文化を世に送り出し、世界の追随を許さないトップの座を走り続けています。失われた20年は、日本のある一面、半分の出来事にすぎないようです。
近代以降、モダニズム(民主主義、自由主義、資本主義、など)は社会の大前提である基盤的思想つまりOSとして機能してきました。社会を根底から支えていた輝かしきOSでしたが、転換期を迎えた日本では、その大前提と現実世界とのズレが徐々に大きくなり、そのズレによる問題が多くの分野で顕在化してきてしまっています。一部の方々には認識されていますが、モダニズムを中心にした既存(本流)文化は危機をむかえているのです。たとえば、建築界では”建築の死”という表現で危機(行き詰まり)の状況を説明している方もいらっしゃいます。
昭和モダニズムノスタルジー状態に突入している今の日本。新築が価値の頂点であるリフォーム時代から、”床”あまり時代に突入し戦後60年を経てやっと大衆開放された不動産業界を活用した、個人の感性による価値基準を持っているニュータイプの皆さんが、独自の視点で評価、自分を表現する部屋に住むリノベーション時代へと移行しています。欲望を埋める充填文化から余白に豊かさを見いだす余白文化へと移行しているといってもよいでしょう。
出し尽くされたイメージは、大衆レベルで、サンプリング・カットアップ・リミックスされることによってリ・イマジネーションされ、次々と具現化、リノベーション文化として花開きつつあります。”リノベーション+DIY”現象を見てもわかるように、時代は、ヒエラルキーの頂点であるプロが主役の昭和モダニズムから、大衆が主役のリ・イマジネーション時代へ移行(=フラット化)しているのです。それはまさに”建築の死”へ向かいつつある一現象であるといってもよいかもしれません。
このような社会状況をふまえ、”The Times Transplantation Building / 時代移植”をどういった意図でデザインしていったのかをまとめてみます。ポイントは次の三点です。
1,大衆文化をメインアイテムとして利用(=サンプリング)し、リ・イマジネーションする。(カットアップ・リミックスする)
2,昭和モダニズム的プロの建築的文脈ではない、ポップ(サブ)カルチャー的文脈によるコンセプト(ストーリー)構築。
3,”プロの技”がさえるほど良い作品であるという大前提的価値をフラット化し、リノベーション文化の根幹的特徴である”素人の技”を意図して取り入れ、表現する。
このように、昭和モダニズムが積み上げてきた文化を、根本的な部分でリ・イマジネーションした作品コンセプトとなっています。
昭和モダニズムの建築概念から次の時代を模索する作品として作ったつもりでしたが、当然ながら、プロには理解されず、一部のリノベーション文化の本質を理解されているみなさんに評価されるだけでした。
■ ”外” 外国(アメリカ)で評価されたのはなぜでしょうか?
直接お聞きしていないのでわかりませんが、想像しながら考察してみましょう。(他分野の方のご意見もお聞きしたいところです。)
1,辺境文化ゆえの割り増し評価。オリエンタリズム、ジャポニズムの影響。
2,医学用語、美術用語、SF的表現によるコンセプト(ストーリー)構築に対する評価
3,クール・ジャパン(新ジャポニズム(?))などの影響
4,ただ単に見たままの、時代様式を並列させた空間の造形的おもしろさ、目新しさ、を評価。
など。想像できる要点は上記の4点です。ほかにもあるかもしれませんね。私が一番知りたいのは、世界の本流文化である欧米人が、日本文化(辺境文化)を本音でどうみているのか?です。
“内”より”外”の方が理解者は多いとは感じていましたが、リノベーション文化が基盤文化である欧米において、当然、同様のコンセプトの作品が既にあると容易に想像できる私の作品が、審査員に高評価されるとは思いませんでした。彼らは果たして何をみて何を評価したのでしょうか?これは大変おもしろい推察、想像ゲームです。
“外”の審査員のみなさんは、何をみて何を評価したのか、みなさんも想像してみてはいかがでしょうか?
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■ 上記デザインのポイント3点についての説明
1,大衆文化をメインアイテムとして利用(=サンプリング)し、リ・イマジネーションする。(カットアップ・リミックスする)
この写真のように、当時、どこででも見られた何の変哲もない、「障子、地袋、天井」=大衆デザインを、メインアイテムとして利用しています。
“移植”とは、カットアップ・リミックスすることといっても良いです。
2,ポップ(サブ)カルチャー的文脈によるコンセプト(ストーリー)
“The Times Transplantation Building / 時代移植” コンセプト
取り残された、ある時代の価値喪失空間。
その一部を切開、切除し、そこに異なる”時代”を移植し縫合する。
“血管”ともいえる「給水管・排水管・ガス管」、”神経”ともいえる「電線」、”臓器”ともいえる給湯器等の「住設機器」、傷んだこれらのものを”切除”し、新しい部材を”移植”、ライフラインを更新する。
それは、まるで、”外科手術”のようである。
時代から取り残された1967年空間。
皮膚のように表層を構成する内装の一部を切開し、切除する。
開いた扉から、新鮮な空気が入り込むように、2012年の世界が1967年の世界に入り込み移植される。
それは、まるで、”成形外科手術”のようである。
異なる時代の価値の並列による”デザインリミックス効果”により、価値が喪失したように見えていた1967年空間が、逆転、新しい”物語=価値”が生み出される。
1967年の世界と2012年の世界、異なる時代・デザイン・価値が並列する、”時代様式並列空間”の誕生である。
このような言葉・用語・ストーリーは、建築のコンセプトとして、あまり利用されてきませんでした。
マンガ・アニメ・映画・テレビ文化ではよく見られる表現ですね。
3,”プロの技”がさえるほど良い作品であるという大前提的価値をフラット化し、リノベーション文化の根幹的特徴である”素人の技”を意図して取り入れ、表現する。
ここに見られるディティールは、実は、プロの仕事としてはあまりよろしくありません。
リノベーション文化は、個人の感性に立脚した、”粗削りの素材感”や”単に取り付けただけの納まり”が特徴的な文化です。
DIYとの親和性が高い文化なのです。
“どちらが上”ではなく(=フラット化)、どのレベルの納まりを選ぶのか?という文化的特徴を表現しています。
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