福岡ビンテージビルカレッジ
第4回 「京都のビンテージが生みだす都市再生」 ― ご報告と私の感想
タイトル : 「都市居住推進研究会のチャレンジ!」
~京都の不動産事業者・建築士・研究者・行政関係者がタッグを組んで、住まい・まちづくりの難題に取り組んでいます~
講師 : 大島祥子氏(都市居住推進研究会 事務局/スーク創生事務所 代表)
■ はじめに
今回講師としてご講演いただきました大島さんは、ご自分を”雑食系コーディネーター”と表現されていました。
グローバル化という偏西風が常に吹きあれるようになってしまった世界で、日々の微風、強風に舵を取り、時々訪れる台風におびえ、低空飛行をなんとか維持する状態の日本。ソフトデザイン優位のストック時代に突入し、先が見えない不安定で流動化する社会。このような社会で有効な戦術とは”正規軍の戦い方”ではなく”ゲリラ戦”である、といわれるようになりました。今回のご講演は、まさに、雑食系コーディネーターがしかける緻密な計画に基づいた、多分野の能力者によるゲリラ戦術が世の中を変革していっている!といった印象をうける刺激的な内容のお話となりました。
1時間という限られた時間の中で、多岐多数にわたるプロジェクトをご紹介くださりました。どのプロジェクトも、それぞれじっくり時間をかけてお聞きしたい意義深い内容でしたが、時間の関係上、概要の説明のみのプロジェクトも多々ありました。内容を把握し理解するといったことは私の許容範囲を大きく超えており無理なのがすぐわかりましたので、スポット的に飛び出してきた、キーワードやプロジェクターの要約やまとめなど、なんとか書き留めることができたものを手がかりに、勉強させていただいたこと、想像をふくらませ考えたこと、などについて書かせていただきます。
■ ご講演内容を自分なりに次のように整理させていただきました。
千数百年以上の歴史のある、世界でも有数なビンテージ都市「京都」における、雑食系コーディネーターが要となった最強チーム体制による超実践的まちづくり戦術と、現時点までの実績・変革内容について。
1,ものづくりの主役(要)は誰か?
2,有効な戦術は何か?
3,何を変える=リノベーションするのか?
・3-1,「法」
・3-2,「住文化」
・3-3,「夢」
● 1,ものづくりの主役(要)は誰か? 大転換期、要となる主役は入れ代わった
・ 架橋型社会関係資本家 → スーク アラビア語で”市場”
大島さんの事務所名称”スーク”とは、アラビア語で”市場”という意味とのことです。お話をお伺いしていくに従い、大島さんは、”スーク=市場”という名にふさわしい、社会関係資本家であることがわかってきました。
企業と住民の間に入り、板ばさみの中で活路を見いだしたり、専門分野にこもりがちな敬遠気味の業界内異業種に橋を架けたり、自然には交わることのない、研究機関、民間企業、行政機関、地域住民などの実質的責任者をつなげ、まとめることができる希有な存在の大島さんこそ、架橋型社会関係資本家そのものであるのではないかと思いました。組織・システムをつくるには、必ず必要な能力者であるといってまちがいありません。
既に、一人のカリスマ性のある人物による全体計画提示のトップダウン的なハード優位社会は終わったようです。これからは、住民を巻き込んだ専門家チーム体制によるソフトデザインの提示、実践が標準化していく時代であり、それらを束ねる”要”となるのが”コーディネーター”であり、このコーディネーターにこそ大島さんのようなカリスマ性が必要であることを認識させられました。
ストック時代は、”コンクリートから人へ”という言葉が示すように、ハードデザイン優位社会からソフトデザイン優位社会への転換を示していると思います。街に対して仕事をしていくには、実質的な責任を持っている産・学・官・民などの各担当者と各分野の専門家の協力が必要となってきます。これらをつなぎ、まとめ、実践している”コーディネーター”の大島さんは、これからの日本でもっとも必要な財産=資本となる”人材のネットワーク”を数多くお持ちである社会関係資本家です。街に関わる(たぶんあらゆる分野の)ソフトデザインを実践するには、実力ある架橋型社会関係資本家の能力が成否の鍵を握っているようです。
● 2,有効な戦術は何か? 「コラボレーション戦術」「ゲリラ戦術」
・ 最強のチーム体制の構築 → 「都市住居推進研究会」= 「都住研」
・ 社会のソフトインフラ=OSを変革し、時代の道筋をつける新システムを構築するための「コラボレーション戦術」
京都は、長きにわたる日本の首都として、有形無形かかわらず無数のストックが蓄積し続けている、世界でも有数な歴史・文化都市です。近代以降も日本を代表する大企業も多数あり、大学など教育機関に通う学生数も多く、今を生きる都市でもあります。
時代の変わり目に新しいシステム=新OSを幾度も作り上げ、無数のストックが混在している”京都”に、近代日本のソフトインフラ=OSともいえる”法律”をリノベーションしてしまうという超実行力をお持ちの最強チームが存在していました。それが「都市居住推進研究会」=「都住研」だったのです。
最強チーム「都住研」の特徴
1,「研究者(都住研)+事業者+行政」の距離が近くフラットな関係を実現。
2,「宅建業者+研究者+建築士」という希有なコラボレーションチーム体制の実現。
このような理想を目標に活動しているのではなく、すでに実現し、成果を上げている都住研は、理想的な最強のチーム体制による、超実践システムでした。これは、まねしようと思ってもまねできないチーム体制、システムです。京都DNAを引き継いでいるこの最強チームが次々と先進的な試みを実践していました。すごい!
このような超実践能力を持ったコラボレーションチーム体制をつくり、機能させ、維持していくための要素。
・ 自社の利益を超越しても取り組みたい社会的意義のある高い目的
・ 各方面の実質的責任者・組織を取り込んだ即実践可能なシステム
・ 一社ではできないが数社集まれば実現可能なネットワーク
・ 組織内を活性化させる競争原理の導入
など
未来を見据えた社会的意義のある高い目的を設定したアプリケーションソフトともいえる汎用的実践システム”モデルプロジェクト”を実行することに加え、基本ソフト=OSともいえる”法”をも変更させる強大な力をお持ちでした。
● 3,何を変えるのか? 「法」「住文化」「夢」
3-1,「法」のリノベーション 都住研「第一次~第三次提言」
・ 昭和モダニズム時代からストック時代に対応した”法の精神”へリノベーション
・ “既存不適格的排除の論理”を排除するとき
○ 既存不適格という概念
“建築基準法”は、近代の急激な都市化に対応した法律ですので、モダニズム精神をもとに構成されています。地震や火事等の災害からから住民を守る耐震化・不燃化と、ゾーニングと建築制限等によるまち全体として秩序ある発展、などを目的とした集団規定と、都市の中で文化的な生活ができる最低限の住環境の確保や、周りに悪影響を与えない程度の環境保全を規定した単体規定の2本柱で構成される法律です。基本的に全国一律の規定で、歴史的建造物を含めたすべての建築物に適応という問題の多い、未だ発展途上の法律です。
右肩上がりの進歩史観、スクラップ&ビルドが前提の考え方であるため、現行法文と合わないところを”既存不適格”という社会の外側に追いやるような考え方で構成されています。そのため、見放された、おいてきぼりの、塩漬け空間、(道、敷地、建物、住民など)、が日本中にあふれています。昭和モダニズム時代からストック時代へ移行してしまった日本。今までのような外に追いやる排除の論理だけでは、成り立たなくなってきています。
このような状況の中で、都住研のみなさまの試みにより新しい法律ができました。まさに、法のリノベーション。時代の変化に合わせ、これからの未来を見据えた方向性を指し示すような法ができたことにより、排除の論理で外側に追いやった一部の既存不適格地帯を法の内側へと囲い込むことに成功しています。
ストック時代、人口減少時代、床余り状態の中で、もし本当に、既存不適格地帯を法の内側へ囲い込み、どうにかしようと考えているなら、既存不適格地帯の再生プランを提示・確立し、積極的に推進していく必要があります。”既存不適格的排除の論理”を排除し前向きのプラン提示の必要性を感じました。とはいうものの、具体的にどう改正したらよいのか、難しくてわたしにはよくわかりません。次にその答えの一例をみてみましょう。
○ 既存不適格をふくめ、建築基準法をどうするべきなのか?
都住研のみなさまのご提言が、その答えの一つです。これらの内容は大変勉強になります。
都住研提言 法のリノベーション
狭隘道路、袋小路関連の既存不適格地域の現実的社会復帰政策
・ 第一次提言:袋小路・二項道路小委員会提言
・ 連坦建築設計制度
これらのご提言は、塩漬け状態の既存不適格地帯を現実的対応で再生可能にするご提言で、すでに法案化され、再生された事例もあります。
このように、不動産を、”個人所有の個別的視点”から、”国富として地域的な多角的視点”に転換し、面的視点での開発、地域特性に合わせた法適用の容認、生活・防災視点の構造指定、住民参加システムの確立など、社会の外に追いやるような印象の既存不適格地域を取り込んだ、ストック時代を見据えた現実的対応ができる法律に改正することが必要であることがわかりました。
(一般の方にはわけのわからない”建築”と”消防”の各法律を、ストック時代に対応した、分かりやすい現実的な内容の法規に変えることができると良いのでしょうが・・・)
このような法改正に加え、既存不適格という状態ならではの価値を活用した再生プロジェクトも実際に取り組まれていました。お時間の関係上ご紹介のみになってしまいましたが、全国の同様な場所で応用できるこれらの事例のお話を、もう少し詳しくお聞きしたかったです。
3-2,住文化のリノベーション → ストック時代の住まい方
3-2-1、コンペによる住文化の提示
○ 「京都まちなかこだわり住宅コンペ」 これまでの近代史観のリノベーション
コンペのテーマを見ると、これからの日本の住文化の方向性が見えてきます。
テーマ
1,京都らしさ
2,地産地消
3,地域産業連関
を備えた住文化の創設
○ コンペのテーマは全て、機能主義、合理主義、経済原理など、昭和モダニズム時代では良いこととされてきた考え方を、足元の日本の、そして京都の文化を見直し、近代システムの中で再構築していく試みのように感じました。目的を達成し役割を終えようとしている昭和モダニズム時代の考え方を、ストック時代の日本の京都らしい考え方に修正し、近代以降の本当の日本の住文化を作り上げようというこれからの日本が目指すべき方向性が提示されています。
巻き込まれていくグローバル化と、高度な情報化。偏西風や台風のように、国境線など関係なく渦中に巻き込まれていきます。対して、境界内の利益・文化を優先させ守る事を是とするローカリズム。果たして、敵対関係にありそうな二つの考え方は、深刻な対立なき共存ができるのでしょうか?
3-2-2、企業コラボによる再生システムの構築
京都では、まちが新陳代謝するかように、ストックを活かした数々の再生事業が行われています。
○ リ・ストック住宅「ハチセ」
ストックされた町屋を、現在の住宅標準スペックにリノベーションし、販売するシステム。
町家の良さを残しつつ現在の住宅標準スペックを満たしているので快適な暮らしができますね。
○ 堀川団地 築61年 同潤会では果たせなかった夢のチャレンジ
再現不可能性という価値を活かしつつ、現代によみがえらせる先進的なプロジェクト。
民間売却はしない、敷地を分離させないなど、多くの課題を乗り越えるべく、新たな試みにチャレンジしているようです。プロジェクトが基本コンセプトにそって進むことを願っています。
3-2-3、まちのビンテージ
すでに、住居の大量供給時代を終え、”床”が余りはじめた中で、落ち着いたまちづくりができるはずです。そう、たとえば、違いがわかる人々が住みたくなるまち、”ビンテージなまち”。それを実現するために必要なヒントを、大島さんよりご提示いただきました。
○ まちのビンテージに必要なストック要素と住民の気持ち
これらがストックされている「マチ」には潜在能力があります。
・ 「モノ」「ヒト」「物語」+愛着度がます住民密着参加型システム
土地所有者がそのまちの住民なのか、現住民がそのまちとどのような関わりがあるのか、などで愛着度が変わってくるようです。ビンテージ文化には、愛着度指標がなにより重要です。そのまちに愛着がない土地所有者や住民が多ければ、ビンテージなまちになるのは難しいかもしれません。いかに住民のみなさまのまちに対する愛着度を高水準に保てるのかがカギかもしれません。
○ ストックを活かしたまちづくりの特徴
1,環境への負荷低減
2,地域の景観の保全
3,地域の住文化の継承と発展
4,住みごたえのある住環境
5,個性 (差別化)のあふれる地域性
ストックを活かしたまちづくりとは、建物だけではなく、景観やそのまち特有の個性など建物を取り巻く住環境全体のことであるというご指摘です。こんなまちがあったら住んでみたいと思いませんか?これからのまちづくりとはストック文化を確立することです。これらが確立すればビンテージなまちとなるのではないでしょうか。
○ これからのまちづくりに有効な「ゲリラ戦術」
・ 大規模開発から → 小規模地域再生開発へ
・ 奇特な取り組み → ビジネスへ
・ 用途変更 → 社会の変化に対応
・ 用途コラボ
・ 戦略的リノベーション
・ 既存不適格ならではの利点(高付加価値化)
など
このお話もご紹介のみになってしまいました。実践されている「ゲリラ戦術」、興味深いですね。機会がありましたら勉強させていただきたい内容です。
3-2-4、地域ブランドの成立過程とモデル化
○ 京都町屋再生による地域ブランドの成立過程
京都の町屋ストックの状況ですが、”蛤御問の変”での大火後にできた町屋が、一部を除き震災を免れ残っているとのことです。これらの貴重な財産を活かしたまちづくりも積極的に行われているようです。そこには、まちの新陳代謝サイクルのようなモデルが見えてきました。
古いがゆえに新しいさを感じさせる町屋。老朽物件であるがゆえに格安。チャレンジ精神を持った方々が住み始めいつしかそれらが集積してくると、認知度が上がり、家賃が徐々に高くなり、ブランド力もついてくる。すると、その地域が別のステージへとバージョンアップするという現象がおきているとのこと。これは、どこででもありえる共通の現象であり、ステージが上がった段階での対処いかんで、その地域の行く末が変わっていくようです。どこを目指していくのか未来を見据えた対応が必要のようです。
○ 町内レベルの街の発展から停滞、衰退のモデル
町内レベルの街の発展は、福岡でも京都でも、下記のような経緯で発展から停滞までのモデル化が可能なようです。
価値が認められていない地帯→まちづくり・リノベ等手を入れると価値が出てくる→人が群がる→価値高騰→投機マネー過剰流入→崩壊→瀕死状態→価値下落
投機マネー過剰流入を防ぎながら、節度ある継続的発展がいかにできるかが課題。
福岡では、”親不孝通り”地区の発展と衰退、”大名”地区の発展と衰退の経緯が、わかりやすい実例となっています。まちの発展から停滞モデルを計画的に循環させることによって、20から30年サイクルのまちの新陳代謝モデルができるかもしれません。
3-2-5、問題点
○ “空き家”対策 → 日本全体の社会的大問題
京都でもすでに”空き屋”問題が出てきているようです。
“空き家”の発生要因を詳細に研究なさっていました。
“空き屋”の分析により、次のような”空き家”対策のキーワードのご呈示がありました。もう少しお聞きしたかったですね。
・ 人口、流通、再生 でまちの新陳代謝は促進され、よみがえる。
3-2-6、ストック時代を向かえた近代以降の日本の住文化
京都では、同潤会アパートと同時期に完成し、未だに住民の生活が生きている”堀川団地”があり、再生/再開発計画が進んでいました。
昭和の初めから、徐々に変化してきたライフスタイル。だいたい1980年代中頃には近代以降日本人が目指してきた住環境、そして、ライフスタイルが確立・完成したといってよいのではないでしょうか。堀川団地の写真を見ると、今では想像もつかない”生活”が見えてきます。多くの人々の絶え間ない努力により、現在の快適な住環境が確立・完成できたことを思い知らされます。
この確立した住環境とライフスタイルを基準として、ストック時代の新旧織り混ざったまちで、近代以降の持続可能なあるべき日本の住文化を考えていく時期に来ていると思っています。大島さんが関われられているの数多くのプロジェクトを見させていただきますと、その向かうべき方向性が的確に提示されています。
3ー3,「都住研」による、”夢”のリノベーション
都住研「第4次提言」
私が学生だった頃と、今は、世の中が変わってしまいました。学生時代抱いていた都市そして建築界への”夢”は、90年代半ばで役割を終え、ノスタルジックな物語となってしまいました。
ストック時代を生きる未来の日本の姿を的確に掴んでらっしゃる都住研の皆さんは、”夢”のリノベーションを行い、若い方にも希望をもてる新しい時代の”夢”をご提言、発表していらっしゃいます。
○ 京都の未来都市の姿 → ”夢”
・ 個性のあるまち
・ 職住共存のまち
・ 地域資源のネットワークによる回遊性のあるまち
・ 京都市民と内外観光客が交流するまち
・ 誰もが歩きたくなる京都(みやこ)
これが実現したら、なんと魅力的なまちになることでしょう!この、ご提言には夢があります。輝く未来都市が夢だった世代にはわからないかもしれませんが、これが、近代以降の日本の京都における本当のまちの姿であり、これが、これからの時代の実現可能な”夢”なのです。
■ 終わりに:OSリノベーション
・ 都市・建築・不動産分野のOSリノベーションは、千数百年間幾たびも新しいOSを創造してきた京都から始まっていました。
ビンテージビルカレッジは、スクラップ&ビルドが当然だった右肩上がりの時代が終わり、ストック時代の水平低空飛行の時代へ転換した今の日本では、有り余るビルを寿命まで有効活用することが必要である。そのためには、ビルにも価値と時間の反比例的な単純な価値基準だけではなく、”ビンテージ文化的視点”による評価基準が必要なのではないかということから始まりました。
どうも、ソフトインフラといわれるあらゆるシステムが、資本主義経済の前提条件のように無限に発展していくような幻想の上、右肩上がりの成長・発展を前提に作られているようです。
建築基準法もそうで、未開人のような前近代の人々の営みを否定し、古い建物に変わり近代建築が建ち並ぶ近代都市への更新がみんなの創意であり、そうあるべきだという精神で構築されてきました。法で規定した内側では、合理的に機能しましたが、排除の論理で外側に追いやった部分では、なかなか事は進みませんでした。生活空間とは、想像以上に前近代的であり、非合理的であり、非機能的であるものです。他人には過酷で絶対生活できないと思われる環境でも、実に多くの人々が生活しています。
そのような、常識外、想定外、法規外の部分をどうしていくのか?が問題となっています。もう既に、建築基準法の外だから相手にしないという排除の論理でのみ対応する時代は終わりました。消防のように、現実的対応をしないと成り立たない時がきているようです。
都住研のみなさまのお仕事は、現状を的確に分析し、現実的実践的視点で、迅速かつ合法的に進めていこうとする、革新的な試みだったのです。
*都住研さんのご提言にご興味のある方は、ホームページをご覧ください。
都市居住推進研究会 http://www.tjk-net.com/
*リノベーションとは、永久発展前提の近代史観を修正し、近代以前の営みを振り返り、安定的・持続的なアフターモダンの新世界観をつくること。
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第2部
■ コーディネーター大島さんによる三つの質問と、パネリスト4名のみなさんによる”答え”コーナー
他のパネリストの方のご意見に耳を傾ける余裕がありませんでしたので、私の意見のみです。また、今回のレポート作成に当たり、会場で発表した答えをもとに、新たに考え直し、大幅に加筆、修正しています。
設問1,高経年物件ビンテージの何がよいか?
私の答え:「なんじゃこりゃ」
高経年物件は、いくつかの魅力があります。その魅力は各物件異なりますが、いくつかの視点を持つことにより高経年物件を楽しく見ることができます。その魅力をまとめてみました。
1,考古学者の視点 探検、発見、推察、調査
30年以上経つ物件に入ってみると、時々「なんじゃこりゃ」と叫びたくなるような得体の知れないものに出会うことがあります。それらに出会ったとき、果たして、この”痕跡”は何なのか? 考古学者の気分でいろいろ推察してみると楽しいものです。
・ 風習の痕跡
・ 生活の痕跡
・ 設備機器更新の痕跡
・ 補修の痕跡
・ 改装の痕跡
など、生活の跡の残る空間は魅力的です。
2,技術者の視点 技術発展の歴史
高経年物件は、当然ながら建設当時の技術を利用し作られています。技術は進歩し、生活水準は上がり、ライフスタイルは変わっていきます。右肩上がりの時代はバージョンアップが前提の時代です。昔の技術に次々と新たな技術を付加して生活水準に合わせようとしていますが、元々昔の生活水準、技術でできていますので、往々にして無理な状態での改修となります。その結果、露出した配管、給湯器、電線管等、むき出しの”技術”が部屋の中に現れます。
昭和のライフスタイルは、特に水回り空間の技術発展と同期的にバージョンアップしていっていますので、水回りの状況を見るとだいたいの年代がわかります。また、建物の外観や内装を見ても、建築材料、製品、仕上げ素材など、年代によって移り変わっていきますので、水回り同様だいたいの年代が推察できます。
3,暮らし・風習風俗の視点 くらしの移り変わりの歴史
建物は、その時代の暮らし、習慣、世相、社会、風俗などをもとに設計デザイン建設されます。日々の暮らしの中では、連続した時間の中にいるので、なかなか実感しないのですが、高経年物件に突然出会うと、連続性がない過去が突然目の前に現れるため、何でこのような作りになっているのかわからないことも多々あります。後日調べてみて、こういった暮らし方をしていたからこのような作りになっていたのか・・・ということもよくあります。
4,デザイナーの視点 様式 デザイン 流行の歴史
デザイン、様式は、ファッション同様流行がありますので、その時代のデザインを素直に取り入れた物件を見ると時代の息吹、懐かしさを感じ、時間の流れを実感することができます。
最近まで都市化による住居不足が最大の都市問題でした。そこで、迅速に大量に住居を供給するために、「標準設計」が取り入れられ、全国一律の似たような建物が大量に供給されました。その結果、その時代共通の雰囲気というものがみてとれる建物が数多く見られます。その中でも、それぞれの建物の個性があり、”時代性+個性”を考えながら鑑賞するのも高経年物件を見るときの楽しみです。
5,アートの視点 オーラ 存在感、物質観
高経年物件の最大の魅力、といってもよいかもしれません。それは、古いモノしか発することのできない”物質感”です。古いモノをなぜ”古い”と感じるのか、それは、物質の物理的、科学的、人為的経年変化によるオーラともいうべき雰囲気を、繊細なる感性で感じとっているからです。ツルツル、テカテカ的な新築では、物質観を消し去る方向で施工されることが多いので、新/旧の違いが鮮明に出てきます。時間が経つこと等による物質の劣化=経年変化が、時にアーティストとなり、物質感あふれるアート空間を作ることがあります。
想像力を喚起する雰囲気のなかで、見えないものを感じとる繊細なる感性の習得。それが高経年物件の魅力を楽しむ秘訣です。
設問2,福岡と京都のリノベーションの違い
共通点、創意工夫点
私の答え:「価値 時間」
実は、どちらの都市についてもあまり知識がありませんので、印象論でお答えしております。
二つの都市は、時間=歴史の価値の捉え方が異なるようです。
○ 環境
・ 京都:環境は福岡より厳しい
・ 福岡:環境は京都より穏やか
建物内の温熱環境水準をどうするのかで、大きくリノベーション内容や工事費が変わってきます。
○ リノベーション
・ 京都:世界の歴史を背負う”歴史を生きる京都”。伝統をふまえ活かしたうえのリノベーション
・ 福岡:豊かな土地ならではの”現代を生きる歴史都市福岡”。現状の流行、”今”スタイルのリノベーション
伝統的な町屋には、環境に適した住まい方が確立しており、それを基礎としたリノベーション手法が有効です。(伝統復活型リノベ)
近代建築のリノベーションでは、伝統というより、今、これから先をどのように作っていくのかというところがテーマになっていることが多いように感じます。(ファッション型リノベ)
住居が既に余っているのはどちらも同様です。既に全国的問題。
○ 十数年福岡に暮らしてみての私の感想です。
福岡は、ないものを探すほうが難しいといってもよいような、何でもある豊かな土地です。福岡で発祥したものがたくさんありすぎて、特に騒ぎ立てることもないという贅沢な面もあります(笑)。環境面でも豊かで暮らしやすい土地です。ソフトコンテンツも新旧どちらも豊富で、大変活動的なまちです。中心街は、コンパクトシティという名にふさわしく、自転車や徒歩でも充分楽しめます。(”福博”という言葉が表すように、中心部は二つの地区、福岡地区と博多地区で構成されています。これがわからないと福岡の姿は見えてきません。)
これらの印象から『豊かな土地ならではの”今を生きる歴史都市福岡”』とお答えしました。
設問3,「住まい方の自由」で何が可能になるのか
私の答え:自分の居場所
自分が自分でいることのできる自分の居場所。
世帯内人数が減り続ける中、社会システムを家族から個人単位にしていかないと、様々な点で矛盾が出てくるようになってきました。流動化する社会で自分を確立し自分を保持していくのは大変です。リスクヘッジとして自分の居場所をできれば複数確保しておく時代かもしれません。(複数の自分) 自分が自分でいることのできる自分の居場所の有無が日々の幸福度を決めるような人々も多いように思います。住まい方が自由になることにより、自分が自分でいることのできる居住空間を、少なくとも一つ確保することが可能になる時代がくるのではないかと思っています。
○ これからは、仕事の変更や家族構成の変化などによるライフスタイルの変化に無理なく対応した住み替えや、個人の感性に立脚した個性的ライフスタイルに対応した居住空間など、有り余る”箱”を有効活用した自由な住まい方が標準となるのではないでしょうか?
1,仕事の変化→流動化への対応
2,心の変化→ファッション的住み変え
3,家族の変化→身内の状況変化に対応
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第 1回目が”衣”、第2回目が”働”、第3回目が”食”、今回の第4回目が”街”でした。”住”空間を取り巻くこれらの生活空間を、新時代にあった新しいライフスタイルにどのようにリノベーションさせてゆくのか?大きなヒントが得られた意義深いお話となりました。
まとめのご報告は次回(いつになるでしょう・・・)
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第1回 私のVINTAGE LIFE / 2012年12月16日(日)終了
第2回 オフィス文化から生まれるビンテージ / 2013年1月19日(土)終了
第3回 食文化から生まれるビンテージ / 2013年2月2日(土)終了
第4回 京都のビンテージが生みだす都市再生 / 2013年3月9日(土)終了
こちらもご覧ください
>>福岡ビンテージビルカレッジ / 第1回 「私のVINTAGE LIFE」 ― ご報告と私の感想
>>福岡ビンテージビルカレッジ / 第2回 「オフィス文化から生まれるビンテージ」 ― ご報告と私の感想
>>福岡ビンテージビルカレッジ / 第3回 「食文化から生まれるビンテージ」 ― ご報告と私の感想